銀河英雄伝説 Die Neue These 第四話 不敗の魔術師 あらすじと感想 手ぶらのヤン 私は未来を見つめていたい

第四話 不敗の魔術師 あらすじ
16歳までのほとんどの時間を宇宙船の中で過ごしたヤン・ウェンリーは、歴史の書物を読むことが好きだった。
ヤン・ウェンリーは軍人になるつもりはなかったのだが、父親亡きあと学資のないヤンが歴史を学べる唯一の学科が戦史研究科であったことから士官学校へ進学した。
図書館通いをしていたヤン・ウェンリーはある日ヴァイオリンの音色に誘われて屋上に行き、ジェシカ・エドワーズと知り合う。ジェシカ・エドワーズはヤン・ウェンリーの親友ジャン・ロベール・ラップの幼なじみである。
授業の一環である戦闘シミュレーションの相手は士官学校で首席のマルコム・ワイドボーンであった。紡錘陣形で押してくるマルコム・ワイドボーンに、少数の別動隊に補給部隊を攻撃させたヤン・ウェンリーはいともたやすく圧倒的勝利を収めた。
戦史以外では及第ギリギリの成績であるヤン・ウェンリーだったが、これを機に学校側から戦略研究科への転科を要請された。ヤン・ウェンリー自身は転科を希望していなかったが、学校をやめる権利及びそれに付随する学資の返還とをちらつかせられては、承諾せざるを得なかった。
卑怯者の末路
卒業の1年後には前線での勤務を任じられたヤン。エル・ファシル駐留軍を率いるリンチ司令官は銀河帝国軍と接触後、惑星エル・ファシルに逃げ帰って来た。エル・ファシルの300万の民間人が巻き添えになるかというときに、ヤン・ウェンリー中尉はリンチ司令官を囮にし、民間人の脱出に成功した。
その功績として、ヤン・ウェンリー中尉は大尉を経て少佐へと2段階の昇進を果たした。
シルバーブリッジで暮らすことになったヤン・ウェンリーはアレックス・キャゼルヌ少将からの出世祝いを一緒に飲む。アレックス・キャゼルヌはトラバース法という軍人の家庭で孤児たちを養育する制度について、徒弟制度とでも思って養子を迎えろと勧める。
冬を迎え、ヤン・ウェンリーの家では引っ越し当時のままの荷物が積み上げられている。雪の朝、呼び鈴がなる。ドアの外で待つ少年ユリアン・ミンツの吐く息が白い。
感想 手ぶらのヤン 私は未来を見つめていたい
制帽をかぶっていないヤン・ウェンリーが何だか違う人のように見えます。いい意味で、です。ヤン・ウェンリーの父親は彼の言葉から推察するに、大した人物のようです。不敗の魔術師ヤン・ウェンリーがあるのも父親あってのことなんですね。
手ぶらのヤン
何も持たず入寮したヤン・ウェンリーの噂がジェシカ・エドワーズにまで聞こえているということは、それ自体がヤン・ウェンリーの性格というか本質を表す目的なのかもしれません。物欲とかに無縁とでもいうか、常に客観的視点に立つだとか、そういう雰囲気を感じます。
でも、ヤン・ウェンリーを屋上へと引き寄せたジェシカ・エドワーズのヴァイオリンの腕前はきっとなかなかのものですね。もしかしてヤン・ウェンリーはジェシカに特別な感情を持ったかもしれません。本人が気づいているいないはともかくとして。
ヤン・ウェンリーが父親から教えられた話が印象的です。ルドルフのような独裁者は、支持せずとも黙認した側にも出現させた責任がある、と。立ち上がれ、と伝えたかったのでしょうか。
士官学校では首席のマルコム・ワイドボーンの対戦相手を可哀そうという学生たちがいます。マルコム・ワイドボーンがセオリーどおりの戦闘形態を布陣しますが、ヤン・ウェンリーは小さな別動隊に、後方の補給部隊を攻撃させます。それでお終い。歴史書に習った戦法ですね。それにしても首席が別働隊を気にも留めないというのがなんともいただけません。能力というのは、学業ではなく、資質ということなんですね。
士官学校の校長シドニー・シトレ中将はそんなヤン・ウェンリーに士官としての才能を見出したから、転科を指示したのでしょう。
銀河帝国軍におけるラインハルト・フォン・ローエングラムの時とは違って、さすがに自由惑星同盟というか、地位や階級や慣習にがんじがらめにされていないあたりがヤン・ウェンリーの特進を可能にしたのではないでしょうか。
不敗の魔術師
転科を望まなかったヤン・ウェンリーですが、やめてもいいぞ、だがこれまでの学資は返せよだなんて、選択肢なさすぎです。おかげで不敗の魔術師が誕生するのですけどね。
校長(?)の先見の明ですね。
惑星エル・ファシルではヤン・ウェンリーの意見を無視し、リンチ率いる駐留艦隊は卑怯にも逃げ出してしまい帝国軍の洗礼を受けることとなり、ヤン・ウェンリーが手柄を立てることになったわけです。
ヤン・ウェンリーの家を訪れたユリアン・ミンツはキャゼルヌ少将が示唆した「弟子に教わることの方がが多いかも」と言わしめる人物かもしれません。